日本語教師を目指している方は「国際交流したい!」「日本語が好き!」「ボランティアではなく給与を貰って日本語教師として働きたい」など、人それぞれの考えを持っているでしょう。そして、きっと楽しい日本語教師生活を想像していると思います。
しかし、本当に楽しいだけの職業なのでしょうか?
日本語教師の厳しい側面について、実際に現役の日本語教師として働いている知人に文章を提供してもらいました。かなりシビアな話も含まれます。
もちろん、一教師の考え方・体験談ですので、すべての日本語教師に当てはまることではないですが、十分に参考にしていただける内容です。
少し、心してお読み下さい。
日本語教師は楽ではない
よく「はじめの1~2年は大変です」という話を聞きます。これは、事実です。大半の新人教師は初級クラスの授業から始まるため、毎日毎日教案を書く必要があります。そして教案が終わったら、次は教材を作ります。休日も返上して準備する必要も生じます。
「これでいいかな。大丈夫かな」と不安を抱えたまま、いざ、本番!そこではじめて、いい授業だったのか、ダメな授業だったのかがわかります。
留学生はとても素直なので、楽しければ真剣に聞き入りますし、積極的に授業に参加してきます。しかし、つまらなければ寝てしまったり、携帯で遊んだり、内職したり、おしゃべりをしたりします。
そこからの授業の改善にやりがいと意義を見い出すことができれば、楽しい日本語教師生活を送れるはずです。しかし、そうでないのであれば、留学生が授業への集中力と教師への関心を失うだけでなく、教師自身も日本語教師を続けることが困難になってしまうかもしれません。
研修制度について
ボランティア経験がある方を除くと、学士を取得(4年制大学の卒業)し、420時間コースを修了した直後の段階で「日本語教師経験があります!」という人は、まずいないと思います。
当たり前ですが、日本語教師の資格を取得し初めて教育機関で働くようになるからです。そのような方が「一人で準備して授業してください」と言われたとしたら、教案はこれでいいのか、学生のレベルはどれくらいなのか、右も左も全く分からない状況に陥ってしまうと思います。
そこで、先輩の先生方からの教案指導、学校説明、授業見学などの研修制度が必要になってくるのです。研修制度がしっかりしている学校であれば、安心して働くことができます。
しかし、研修が全く行われない学校もあります。そのような学校の多くは、同一クラス内でのレベル差が激しく、学生の質もけっして良いとは言えません。
一方、研修制度や教案指導がある学校であれば、大事になる前に自分の間違いに気づけますし、アドバイスがもらえます。また、先輩達の授業を見学することで、様々な発見をします。自分の授業に取り入れるべき点を見つけたり、たくさんのアイデアが見つかったりと、日本語教師としてのレベルアップも多いに期待できるはずです。
給与について
「国際交流ができて、学生に頼られて、楽しくやりがいのある職ですよね」という意見を述べる方もいます。確かにそのような側面はあります。
しかし、一方でとても厳しい現実もあります。
インターネットで「日本語教師」と検索すると、必ず「低賃金」というワードが出てくるかと思います。担当直入に言ってしまうと、日本語教師の給料は他の職と比べて安いです。もちろん常勤講師と非常勤講師で給与は変わりますが、はじめは、ほぼ必ず非常勤講師からのスタートとなります。
非常勤講師の場合、コマ給での給料制となる学校が多く、1コマ1500~1800円ほどが相場です。コマ給なので、授業準備や片付け、学生の相談を受けている時間などに関しては、一切給与に含まれません。仕事量とお金があっていないことがほとんどです。新卒で日本語教師になったとして、学校を掛け持ちしても月収20万円に届くことは極稀でしょう。昔に比べると多少良くなっていると思われますが、依然、日本語教師一本で食べていくことは困難な状況が続いています。
学生について
日本語学校に通っている学生は、みんながみんな大学・専門学校への進学のために勉強しに来ているわけではないことを頭の片隅に置いておいてほしいです。
現在、問題になっているのは『偽装留学生』です。日本では、ビザがないと働くことができません(ビザの種類によっては働くことができません)。法務省告示校である日本語学校に入学すればビザが発行され、週28時間以内であればアルバイトをすることができます。それを目的に通学する学生が少なくないという問題です。
そして、そのような学生が多く集まった日本語学校もあります。そういった学校に就職してしまったら大変です。居眠りや不登校など、多くの問題が出てきます。そして、なぜそのような問題が生じているのかを、学校側から先生が突き詰められることもあります。そういった学生の質も日本語教育の問題点です。
日本語教師の心の問題
日本語教師は、おそらく皆様がイメージしている以上に、本当に大変な職です。給料と仕事量が不釣合いである問題、学生の質の問題をはじめ、根深い問題が数多く残っている業界でもあります。
とりわけ新人の先生が陥ってしまいがちなのが、クラスコントロールの問題です。初級クラスといっても、クラス内の生徒全員の日本語力がまったく同じレベルということはありません。そして、当たり前ですが、生徒は一人一人バックグラウンドが異なります。理想を言えば、教師はそのようなクラスで、生徒全員が授業に集中できるような環境を提供することが求められます。
しかし、言うは易く行うは難し、です。
学生の質が悪いとなれば、なおさら困難を極めます。下手をすると黒板と授業をすることになりかねません。もしそこから抜け出せなくなってしまうと、「自分は何のために日本語教師をしているのか」、「自分が授業をする必要はあるのか」等々、思い悩む日々が続き、気持ちが滅入ってしまうこともあるでしょう。
まとめ
日本語教師は、楽ではありません。とても大変な職業です。留学生の増加数に対して、教師の供給が追いついていない構造は、こういった問題点が解決されていないために起こっているのかもしれません。
しかし、やりがいはあります。異文化を持った留学生と触れ合う中で、それまで自分の中になかった新たな価値観が必ず芽生えます。一生懸命日本語を学び、日本の大学に進学し、自分の母国と日本との架け橋になりたいと日々頑張っている生徒の背中を押し、支え、共に成長していける側面があります。心から「日本語教師をやっていて本当によかった」と思える場面に出くわします。
そのような日本語教師の輝かしい面がもっと明るく照らし出されるには、長い間はびこっている問題を一つ一つ解決していく必要があるでしょう。
そして、より外国人の助力を必要とする時代がそこまで来ている今、早急にクリアしていくことが望まれています。