はじめに
日本語教師として働く場合、その雇用形態を大きく分けると常勤と非常勤の2種類があります。一般的に常勤職員の場合は、フルタイムで働く会社員と同様に、学校や法人などに常時雇用され働きます。常勤のように雇用期間の定めがない雇用形態の方が「安定的」と考えられていますが、現状は雇用期間に定めのある非常勤で働いている日本語教師が多く、その多くが不安定な雇用形態の中で働いています。
今回は常勤と非常勤、日本語教師として働く場合の違いについて見ていきたいと思います。
日本語教師の"常勤"と"非常勤"。何が違う?
そもそも日本語教師は、職業柄、常勤職員の方が少ない傾向となっています。理由の一つが、その需要頻度です。多くの日本語教師は日本語学校で雇われることになりますが、日本語学校の生徒数は毎年一定ではなく、年によって増減します。わかりやすい例としては、東日本大震災が起きた2011年、日本語学校へ入学した生徒数は約2.9万人と前年から大幅に減少しました。このように生徒数が減少してしまった場合、教師の数を減らして人件費を調整しなくてはなりません。
非常勤講師であれば契約期間を設けることができるため、生徒数が大幅に減った場合、酷な話ではありますが、彼らの契約を打ち切り調整を行うことができます。常勤講師ではそれができないため、人員削減による人件費の調整ができません。このため、日本語学校では融通の利く非常勤講師の数が圧倒的に多くなっています。こうした背景から、非常勤の講師は常勤講師と比べて雇用条件的に不利な立場と言えます。
実際の割合
常勤講師と非常勤講師の割合を比較してみましょう。
実は現在、日本語教師の実に7割の方が非常勤として働いています。平成30年度の調査書「平成30年度 日本語教育機関実態調査」によると、教員数5,567人に対し、専任(常勤)講師が1,656人で29.7%、非常勤講師は3,911人で全体の70.3%となっています。この比率は急速な経済発展とバブル経済によって"日本語教育"が諸外国から注目された1980年代から変わっていません。
一般財団法人・日本語教育振興協会「日本語教育機関の概況」によれば、日本語教育機関における学生数が平成3年度に35,576名、平成27年度には5万人を超えていますが、常勤講師の数は増えてはいません。というのも先述したとおり、日本経済や日本概況によって生徒数が全く異なる(最少は平成8年度の11,224人、最高は平成27年度の50,847名と実に4万人弱の開き)ことに加え、日本語学校の生徒募集枠が常に定員割れしている事実も大きく影響しているでしょう。
日本語教師の非常勤として働く場合
日本語教師の3人に2人が非常勤講師という現状の中で、常勤講師として働くためにはどのようにすればよいのでしょうか?実は常勤の日本語教師にはある傾向が存在します。それは、大学に勤務する常勤講師よりも、民間の日本語教室で働く常勤講師の割合が圧倒的に多いということです。
大学に勤務する日本語教師の総数546人に対し、民間学校に勤務する常勤の日本語教師は1,582人です。大学では1校あたり約2名、日本語学校の場合は1校あたり約4.5人が常勤講師となります。あくまでデータ上の話ではありますが、常勤講師として働きたい場合、狭き門となっている大学よりも、日本語学校にアプローチを行うというのが、確率上は得策と言えるのかもしれません。
また、どうしても常勤で働きたいという方は、海外で常勤講師の職を得る道もあります。日本語教師の海外求人はアジア圏の低所得国からのものが多く、勤務先によって収入面に大きな違いがあります。ただし現地の給与水準よりは高いケースが珍しくありません。とはいえ発展途上国の場合、生活費自体が相対的に安価な分、医療やインフラなどが日本よりも劣る可能性は高く、必ずしも快適な暮らしが望めるわけではありません。
このような状況を踏まえれば、日本で非常勤講師として働く方が給与面、暮らしぶり共に安定する可能性もあります。ただ、頼れるものは己のスキルのみといった厳しい環境で培った経験が、その後の日本語教師としてのキャリアに大きな財産をもたらす可能性はあります。現在常勤で働いている方の中には、このように非常勤講師としてキャリアを重ねた方もおり、マイナスポイントばかりではありません。
非常勤講師のメリット
雇用形態としては常勤講師よりもマイナスポイントの多い非常勤講師も、メリットは少なくありません。
比較的時間の自由が利く
常勤とは異なり勤務時間の定めがないため、1日の授業数をある程度コントロールし、家事や勉強などと両立しやすくなります。ほかの仕事を行っている場合も同様に、時間の融通性があるため働きやすさという点では常勤よりも魅力は大きいでしょう。
大学の非常勤講師で稼ぐ
また大学の非常勤講師や日本語の研究者ともなれば、たとえ非常勤でも高い収入を得ることができます。大学では1コマ90分の授業に対し、1万円程度の報酬が相場となるケースもあり、日本語学校の常勤講師よりも高い報酬を得る大学の非常勤教師もいます。一方、日本語学校の常勤講師は基本的に固定給であり、一般企業のように昇給の機会もあまりありません。給料は安定していますが、将来的な生活を考えた場合にマイナス面も出てきます。その点、大学の非常勤講師は将来的なチャンスには恵まれています。
非常勤講師のデメリット
収入が不安定
非常勤で働く場合のデメリットとして一番に挙げられるのは、収入が不安定である点です。非常勤の場合、1コマあたりいくら、と言った形での報酬となります。つまり授業の対価として報酬がもらえる形なので、授業がない時はお金が入ってきません。とりわけ夏休みや冬休みなどの長期休暇中は無収入となる可能性が出てきます。授業回数をこなせばこなすだけ収入が増える反面、授業を行えない場合まったく収入を得ることができない厳しい立場となります。
加えて、授業毎に教材や教案作成などの事前準備が必要です。宿題を出せばその採点にも時間が割かれてしまうため、授業以外の時間もいわば労働時間になり得ます。そのような場合であっても、常勤とは異なり給与が出るわけではありませんので、時給で換算すれば一般的なアルバイトかそれ以下の収入になってしまうこともあります。
まとめ
非常勤の日本語教師の実態についてご紹介してきました。現在の日本では非常勤講師の割合が多く、常勤講師への道は狭き門となっています。ただし常勤にも非常勤にもそれぞれメリット・デメリットがあるため、それらを踏まえた上で、就職及び未来のチャンスへ足掛かりを作っていく必要があると言えるでしょう。