目次
はじめに
日本語教師として働いてみたいと考えている方は少なくありません。では日本語教師という職業の需要はいかほどなのでしょうか?
当たり前ではありますが、日本語を学びたいという希望を持っている生徒がいなくては日本語教師の職を得ることはできません。日本語教師の需要に対し、日本語学習者の供給がどれほどあるのか、過去と現在の状況を見ていきましょう。
日本語教師の需要と留学生数の関係(1)
日本語教師になるためのルート
日本語教師になるためには、いくつかのルートを選択できます。大学や大学院で日本語教育主専攻・副専攻を修了する。日本語教育学会による「日本語教育能力検定試験」に合格する。そして最も一般的と言われている日本語教師養成学校や資格系スクールで合計420時間の理論科目と実技科目を修了するといった方法。この内のいずれかのルートを通ることで日本語教師の有資格者とみなされます。
ただし、これは最低条件となります。働き口がなければ日本語教師として活躍し、収入を得ることはできません。
日本語教師の需要 ~近年
平成元年からの統計をひも解くと、まさに平成元年、バブル経済の真っただ中に留学生が大挙して訪れたことにより日本語教育機関の数が増え、それに付随して教師の需要が増えていきました。平成3年までは留学生数、日本語教育機関数、日本語教師数のいずれもが右肩上がりで増えていきましたが、この年をピークに減少に転じます。
中国人留学生と日本語教育機関数の急激な減少
ちなみに平成24年度まで、日本の留学生の約半数は中国の出身者で占められていました。しかし、その中国の留学生たちは潮目が変わるかのごとく急激に減少し、日本語教育機関(学校法人、財団法人、社団法人、会社、個人等)もその煽りを受けて次々と廃業に追い込まれ、平成3年の463機関から平成10年には265機関と、40%もの減少となっています。当時最もダメージを受けたのは、主に株式会社の企業形態を取っていた日本語学校でした。学校法人は当該期間においては年々微増となっており、日本語教師の安定性は学校法人が優位であることが見て取れます。
中国人留学生の爆発的な増加
このように平成元年のバブル経済以降、しばらくは留学生、とりわけ中国人留学生の増減によって日本語教師の需要が左右されていたものの、その波は比較的穏やかでした。しかし平成11年から再び中国人留学生が爆発的に増え、平成15年度には3万人を突破しました。実に留学生の3人に2人が中国人という状況がやってきます。
日本語教育機関数も平成11年から増加し続けますが、バブル経済期とはやや趣が異なり、会社形態の企業の増加と共に学校法人の数が大幅に増えていきました。平成15年には100機関を超えました。企業に雇われる人数が増加するとともに、学校法人に雇用される人数も増え、日本語教師の需要は再び高まりました。
中国以外の地域の留学生の増加
しかし中国人留学生の増加に伴い日本語教師の需要が安定してきた矢先、再び中国人の留学生数が急激に減っていきました。平成16年度のことです。ただバブル期以降とは異なり、中国からの留学生が減る一方で、韓国や台湾、その他地域からの留学生が増え、中国人留学生の減少をカバーした形となります。
こうした経緯から、平成16年から平成19年までの間、日本語教育機関数は若干減少に転じたものの、平成3年から平成10年までの急激な減少とは異なり、ほぼ横ばいと言った形になっていました。この時期は日本語教師の需要度もそれに準じていたと言えます。
中国人留学生が再び増加
平成20年から平成22年までに、中国人留学生が再び増加。日本語教育機関も増え、平成3年当時の463機関に迫る451機関(平成23年度)となります。日本語教師の需要も増加し、多くの方が日本語教師として活躍していました。
日本語教師の需要 ~東日本大震災以降
外国人留学生数や日本語教育機関数が再びバブル期に迫る勢いで増え続けていた矢先、東日本大震災が起きます。平成23年のことです。この年と翌年の平成24年は留学生と日本語教育機関の数が大幅に減少し、それに比例して日本語教師の需要も減少しました。日本語教師の雇用情勢的には真冬の時代を迎えます。とりわけ企業形態の日本語教育機関が激減し、結果、日本語教師として雇用されていた人たちにまで大きな影響が及ぶこととなり、一挙に供給過多となりました。
この傾向は平成27年度まで続いていましたが、ようやく冬の時代は終わりを告げそうです。その兆候は中国以外からの留学生の大幅増加に表れてきています。
日本語教師の需要と留学生数の関係(2)
東南アジア各国からの留学生の増加
平成22年度頃から、中国以外の地域から訪れる留学生が増え続けています。とりわけベトナム人留学生の増加率は群を抜いており、平成23年度には1,410人と全体の4.2%、平成24年度には2,039人で7.0%、平成25年度には8,436人で22.3%、平成26年度には中国人に迫る13,758人で31.5%、平成27年度には15,715人で30.9%と激増しています。
ネパール人留学生も、平成26年度には4,779人で10.9%と中国、ベトナムに続く学生数となっており、東南アジア諸国の留学生が、日本語教師の需要を支えている状況に変わりつつあります。
このような傾向から、中国人の増減で日本語教師の需要が右往左往する事態は、今後はあまり見られなくなるでしょう。一方でミャンマーやスリランカからの留学生がさらに増えていく可能性が高く、これから先数年間は日本語教師の雇用は安定するものと予想されます。
日本での今後の雇用情勢
2019年度の日本は、東日本大震災のダメージがようやくひと段落してきた状況ではありますが、日本語教師の需要が再び上昇気流に乗るまでには、もう少し時間がかる見込みです。人数的にも頭打ちの状態であり、現状維持で精一杯という日本語教育機関も少なくありません。また東南アジア諸国の留学生が増えている状況とはいえ、依然として、中国、韓国からの留学生が多くを占めています。そのため、彼らの意向が国家間の軋轢などの悪影響を受けてしまうと、たちまち日本の大多数の留学生が自国へ帰ってしまう事態も起きかねるのです。
これらの状況を踏まえると、日本語教師をめぐる需要・供給値は、結局のところプラスマイナスゼロという見方もできます。東南アジア諸国の留学生増加はプラス要因であり、中国、韓国の留学生の流動性はマイナス要因となり得るためです。
海外での日本語教師の需要
日本語教師の需要は海外にも多くあります。とりわけ増加しているのが東南アジア各国での求人です。
インターカルト日本語学校の養成講座担当者によると、「求人票の数は2年前に比べると1.5倍ほどに増えている。特にベトナムやネパールなど東南アジアでの日本語学習者が増えていて、全体として日本語教師が足りていない。海外の提携校や他校から『修了生を紹介してくれないか』と問い合わせをもらうことも多い。この傾向はしばらく続きそう」とのことです。実際に2019年12月の現地求人を確認してみると、中国や欧米圏よりも東南アジア圏の求人数が圧倒的に多いのです。とりわけベトナムでの求人数が最も多く、日本への留学者数の増加からも見て取れるように、日本語に対する需要が極めて高まっています。
まとめ
現在、日本語教師の需要は東南アジア圏で最も高くなっており、現地採用のチャンスは過去最高と言っても過言ではありません。日本国内の需要も頭打ちの状況から回復傾向に向かっており、ベトナム人留学生の激増などを筆頭に、確実に需要が増えてくると予想されます。すなわち、日本語教師を目指す方にとっては大チャンスが目の前まで迫って来ている状況です。