はじめに
日本語教師として日本国内の留学生に教えたい。外国へ行って現地で日本語を教えてみたい。こういった動機で日本語教師になりたいという方は年々増えています。一口に「日本語教師」と言ってもいくつもの働き方がありますし、そもそもどうやって日本語教師になるのか不透明な部分もたくさんあると思います。
こちらでは「日本語教師」になるには何をすればいいのか、詳しく紹介していきます。
誰でも日本語教師になれる?
日本語教師という職には、資格や免許は存在しません。弁護士になるには弁護士免許が、高校教師になるには教員免許が必要ですが、日本語教師にはそのようなものがないため、言うなれば誰もが日本語教師を名乗ることができます。とはいえ、日本語を適格に教えることのできない人が、日本語教師として働いていくのは困難です。この場合に必要な能力とは、日本語に関する正確な知識と、正しい日本語の使い方を教え理解させる能力です。
中には「日本人だったら、日本語を教えられる能力を持っていて当然」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。日本人であれば、特に不自由することなく日本語を理解し、話し、読み書きする能力は備わっていることでしょう。しかし、教師ではない一般の日本人は、日常の何気ない会話から単語一つ一つの構成要素に至るまで、日本語という言語における文法、発音、意味解釈などについて理路整然とした知識を備えているでしょうか?
日本語教師は、日本語を構成しているそれら一つ一つのマテリアルを理解し、日本語に親しみのない外国人に論理立てた説明を展開しなくてはなりません。理論的な要素だけでなく、文化や慣習、歴史的な背景など、言語を取り巻く文脈についても理解し、極めて正しい日本語に深く精通していることが求められます。
つまり、「誰でも日本語教師になれる」という文句は、あくまで資格や免許を必要としないという意味においてのみ有効と言えるのです。実情としては、限りなく専門性の高い職業であるため、日本語教師として教壇に立つには相応の努力が必須となります。
日本語を教えるということ
日本語教師は、みなさんが思われている以上に専門性の高い職業です。ただし、「どこで」「誰に対して」「どのように教える」かで、日本語教師として求められる能力は変わってきます。
例えば、地域のボランティアで教える場合や、友人などに対して教える場合、それほど高い能力が求められるわけではありません。そういったシチュエーションでは、日本語教師になるためのハードルが下がるのは間違いないでしょう。
一方、教育機関に所属して給与をもらいながら働く場合は、日本語教師養成講座420時間コースの修了か日本語教育能力検定試験合格のどちらかが求められることが大多数であり、ハードルが高くなります。さらに、小・中学校など公教育機関で教える場合、教員免許が必要になることがあります。海外の公教育機関で教える場合も同様に、現地の教員免許が必要な場合があり、更にハードルが上がります。
大学で教える場合は、大学が掲げる雇用条件を満たす必要があります。その雇用条件とは概ね大学院の修士課程以上の修了を指します。加えて日本語教育や日本語学、言語学専門領域の学位を持っていることも求められます。なお、大学院修了という条件を満たすためには、学部卒+院卒で最低でも4年はかかり(専修学校、短大の場合)、費用がかさみ時間もかかります。その上で、大学に残って講師になるという道は非常に狭き門となるため、数ある日本語教師職の中でもトップクラスで難しいポストと言えます。
日本語教師になるためのルート
日本語教師を目指すルートはいくつか存在します。
日本語教師の採用条件として、企業や学校法人などでは概ね下記の3つのいずれかを満たしていることを求めます。
- 日本語教師養成講座で420時間カリキュラムを修了する
- 財団法人日本語教育振興会が実施する「日本語教育能力検定試験」に合格する
- 4年制大学で日本語教育専攻を一定単位数取得する(主専攻または副専攻)
上記に加え、多くの企業や学校法人では4年制大学の卒業も要件に含めています。海外、特に欧米圏になると、さらに大学院の修士課程修了も求められるケースがあるため、4年制大学卒以上を保有していることは、就職先の幅を広げることになります。
日本語教師を目指している方の多くは、高卒の資格をお持ちかと思いますが、高校卒業後、日本語教師になるためにはいくつかの選択肢があります。
まず一つ目は高校から大学へ上がり、日本語教育科目を専攻し、一定数の単位を取得する方法です。この場合、最短で22歳から日本語教師として働くことが可能であり、何より4年間じっくり学習に時間を費やすことができます。留学生と交流する機会、インターンシップや海外ボランティアに参加するチャンスもあります。色々な経験を若いときに積めるので、将来に向けた知の貯金ができるでしょう。
そのまま大学院に上がり研究科に在籍しながら、日本語学校などで教師経験を積み、修士号取得後に大学講師としてポストを得る方もいます。日本語教師としてのキャリアアップを目指すのであれば、このルートがもっとも最短と言えるでしょう。
高校卒業後、大学や短大、あるいは専門学校に行き、日本語教育とは無縁の学生生活を送った場合は、日本語教師養成講座420時間コースの修了か日本語教育能力検定試験の合格を目指す形になります。在学中に、将来どうしても日本語教師になりたいという気持ちが強くなった場合は、日本語教育科目のある大学へ編入するという道もあります。もちろん、編入試験(専門科目と英語、論文、面接という形式が多い)の準備に時間と労力をつぎ込む必要があるため、けして簡単なことではありません。
高卒、大卒、専門学校卒を問わず、社会人として働いている方、あるいは主婦・主夫の方で、大学で日本語教育科目専攻を取得していなければ、結局のところ420時間コースの修了か検定合格を目指すことになります。社会人として働きながら日本語教師を目指す方で、平日日中の学習時間の確保が難しい場合は、平日夜や土日などで開講しているスクールに入学を検討することになります。
まとめ
高校を卒業してから日本語教師になるまでの具体的な道筋についてご紹介しました。日本語教師には定年がないため、「日本語教師になりたい」と思い立ってから教壇に立つまでのルートを確立することは可能です。しかしもちろん、比較的易しいルートもあれば、とても険しいルートもあります。自分が目指したい日本語教師像から逆算して、自分が一番達成しやすいルートで日本語教師を目指していくことが基本となるでしょう。