はじめに
日本語教師になるための講座として、専門学校などでは420時間カリキュラム、あるいは420時間コースを受講できます。この420時間コースですが、仮に受けていなくとも日本語教師として働く道はあります。一方で420時間コースを受けた場合、果たして就職にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。
日本語教師養成講座は、学校ごとにいくつかのコースが設けられています。例えば東京中央日本語学校なら「420時間コース」や「実技単科コース」、日本語教育能力検定試験の合格を目指す「検定対策ゼミ」が、アークアカデミーなら「420時間総合コース」と「420時間WEB講座」、千駄ヶ谷日本語教育研究所には、「420時間総合課程」や、「入門コース」といったものがあります。
こうしてみると420時間コース以外の講座を受けてもよいのではないか?と思われるかもしれません。しかし、日本で一般的にみられる日本語教師の求人の多くは、「420時間コースの修了」「検定試験の合格」「大学での日本語科目の専攻、あるいは単位取得」のいずれかを満たすことが求められているため、420時間コース以外を修了(検定試験対策コースを終え、検定試験に合格すれば話は別ですが)しても、求人応募の際に"資格"として認められることはなく、就職においてはアドバンテージになり得ません。
就職に強いのはどんな学校?
420時間コースを修了しさえすればどんなところにも就職できる、というわけではありません。420時間コースの修了は講師を募る側にとって一つの通行手形のようなものです。つまり420時間コースを終えた上で、かつ日本語教師としての資質が備わっているかどうかを見極められます。
420時間コースとは、文化庁の示しているシラバスを基に、学校ごとに教材化・講座化されたカリキュラムです。こうした背景により、420時間コースに各学校の「色」が出てきます。加えて、学校の方針や講師の質、授業の進め方などでさらに違いが生まれ、講座を学ぶ本人の経験と日本語教師としての資質と相まって、一人の日本語教師の誕生を見るのです。
例えば都内の日本語教師養成学校の場合、概して下記のウィークポイントが存在します。
→自分で興味を持ち掘り下げていく意欲が必要
→受講生の質問に対して的確な返答ができない講師もおり、ほかの講師に教えを乞う必要も出てくる
→就職後の問題点
→実習を行うにはそれなりのコミュニケーションスキルが必要。経験を積んだ"デキル"ベテラン講師の不在
→受講する講座のレベルが高くないと就職先も限られてくる
こうした学校ごとの弱点を踏まえ、まずは学び舎探しを失敗しないことがよい就職先を見つける第一歩です。
個別の学校評価
それではどんな学校の420時間コースが就職有利になり得るのか、各校のウィークポイントから類推してみましょう。
→講師陣のレベルの差が小さくなく、講師によっては質問に対する的確な回答をもらえない場合がある
→受講生の感想や学校の評判がほとんど出回っておらず不透明な部分が多い
→受講するコースによっては授業料がかなり高額になる
→日本語教師に関する情報を偽りなく公開しており、カウンセリング時に想像していた日本語教師像が変わってしまう場合がある
→講師・授業の質が高い分、予習・復習を行わないと授業についていけなくなる場合がある
→教育実習は、日本語に慣れた外国人相手に授業を行う
→実習、演習を50回以上体験できると謳っているが、実際には導入の基礎部分だけを繰り返す
→文化庁の規定では授業の総時間数が315時間必要であるが、教育訓練給付金の公開データをみると267時間しかなく、基準を大幅に下回っている
→実際の授業内容や講師陣の質が、ネームバリューほどではない
→講師の質にバラつきがある
→クラスによっては1クラスあたりの人数が40名近くになる
→実習の際の学生役が近所の外国人であったり、実習する受講者の知り合いだったりすることがある
→実習の内容が担当講師によって変わる 例:初級だけ2~3回行う講師と、初級1~2回+中級1回を行う講師など
どの学校にもマイナスポイントはあるようです。
いずれにしても自分の実力が磨かれ、十分に伸ばしてくれそうな学校を選ぶべきです。通うのが楽そう、修了証が簡単に取得できそう、といった動機ではなく、就職先を見据えて選択していきましょう。
就職に直結する、理想の420時間コースとは?
例えば下記のような条件に当てはまる420時間コースであれば、在学中はもちろん、修了後も役に立つ知識や考え方を身に着けることができると言えます。それらをベースとすれば就職先を見つける際にも、可能性は広がっていくでしょう。
→講師のばらつきがなくなり、受講者は誰に教わっても安心。
→東京中央日本語学校のように、いわゆる老舗と呼ばれる学校では、長年のトライ&エラーで、就職した後までを見据えた実践的な内容となっているケースがあります。就活面接の際の模擬授業や、講師として教壇に立った際の応用力が格段に上がっていくでしょう。反面、学校の規模が大きくなるほどカリキュラムや授業内容がマニュアル化され、教科書通りの""実践で活きない""授業になる傾向が強くなります。
→講師の質にもつながりますが、すべて講師任せではなく、まずは学校として方針を伝え、カリキュラムに一貫性を持たせることは生徒が育つ環境として最適です。
まとめ
420時間コースが就職に及ぼす影響について紹介してきました。420時間コースを受けていても受けていなくても、日本語教師にはなることは可能です。しかし420時間コースを修了した場合、就職へ有利に働くことは間違いありません。それは実技能力の十分な養成が叶うことと、420時間コースの修了を募集条件として挙げている就職先が少なくないからです。