はじめに
420時間カリキュラムというのは、文化庁が平成12年3月に発表した『日本語教員養成において必要とされる教育内容』を踏襲したカリキュラムを指します。このカリキュラムを基に作られた、大学の日本語教師御養成課程におけるトータルの講義時間がおおよそ420時間だったことで、420時間カリキュラムなどと呼ばれています。
そしてこの420時間カリキュラムは、日本語教師の養成学校において「420時間コース」などと命名され、日本語教師を養成する講座のキーワードとなっています。
420時間とは?
「420時間」とはっきり時間が表記されているため、多くの人は420時間で終了する講座、と解釈してしまいがちです。トータルで420時間勉強すれば日本語教師の試験に合格するとか、日本語教師の資格を得られるといった類のものではありません。あくまで一つの目安となるものです。
日本語教師を養成する専門学校の420時間コースの多くは、概ね420時間を一つの区切りとしてカリキュラムが組まれています。ただ、それで学習が終わるわけではなく、日本語学習者との交流や、自己学習を行う中でよりスキルアップしていかなければなりません。加えて420時間コースを終えた後でも、日本語教育能力検定試験の合格を目指す場合、さらに多くの時間を学習に充てなければならないでしょう。
国内の日本語学校は、日本語教師を採用する際に日本語教育能力検定試験の合格を条件にすることが少なくありません。この検定に合格しなければ日本語教師になれないというわけではありませんが、採用条件にしている会社や機関が多い以上、決して無視できないものとなります。420時間コースの受講+数十時間の検定試験対策が必要、と考えていた方が良いかもしれません。
なお、420時間コースの420とは「単位時間」を指し、1単位は最低45分で換算されます。その場合、実質は315時間となります。
420時間の学習は絶対に必要?
日本語教師の求人の多くは、「日本語教師養成講座420時間コース修了」もしくは「日本語教育能力検定試験の合格」というワードが募集要項に記載されています。つまり日本語教師になるためには、カリキュラムの受講が必要となってきます。とはいえ、この420時間講座について、日本政府はもちろん、文化庁などの公認を受けているわけでもありません。あくまで『日本語教員養成において必要とされる教育内容』という一定の指針があるだけです。つまりは教師が行う指導、学習カリキュラムは養成学校に任されているので、受講する側でその内容の吟味が必要となってきます。
一口に内容と言っても、学習を進めるためのテキスト、教育方針、カリキュラム、講師の質、実績、学習環境など、学校ごとに実に様々です。つまり同じ"420時間講座"を終えても、受講した養成学校が違えば、日本語教師としてのスキルに差が出てくる可能性が大いにあるということです。それゆえ日本語教師になるためには、420時間講座の受講が必要なのはもちろんのこと、それをどこで学ぶかということも重要になってきます。
420時間コースの受講期間は?
スクールが開講している420時間の日本語教師養成カリキュラムの場合、多くは6か月で一通りの学習が終わるようにタイムスケジュールが組まれています。1コマ60分の授業を1日3コマ、平日の5日間通って6カ月。計算上は少なくとも180日間は受講しなくてはなりません。
平日は仕事で土日しか通えないという方は、その倍の1年をかけてカリキュラムを消化する必要が出てきます。逆に1日の受講時間を多くし、最短で3か月、90日前後ですべてのカリキュラムを終えられる学校もあります。また、通信教育で420時間コースを受ける方は、教育実習などの実技を除けばマイペースで学習を進めていけるため、通学コースよりも時間の調整がしやすくなる利点もあります(ただし現状、通信講座は場合によっては420時間コース修了の対象にならないケースも多く見受けられるため、必ず講座を開設している学校に詳細を確認しましょう)。
420時間カリキュラムの根拠
では420時間カリキュラムの基になっているシラバスの内容について見ていきましょう。
考え方としては、まず【日本語を使用したコミュニケーション】という大枠があります。
その下層に、
- 『社会・文化・地域に関わる領域』
- 『教育に関わる領域』
- 『言語に関わる領域』
という3つの領域があります。
それらの領域の中に下記の内容区分があります。
▽社会・文化・地域
▽言語と社会
▽言語と心理
▽言語と教育
▽言語
それぞれの区分以下、さらに3つないし4つの区分があり、それらの区分ごとに、学習すべき内容が明示されています。
▽社会・文化・地域
- 「世界と日本」
- 「異文化接触」
- 「日本語教育の歴史と現状」
▽言語と社会
- 「言語と社会の関係」
- 「言語使用と社会」
- 「異文化コミュニケーションと社会」
▽言語と心理
- 「言語理解の過程」
- 「言語習得・発達」
- 「異文化理解と心理」
▽言語と教育
- 「言語教育法・実習」
- 「異文化間教育・コミュニケーション教育」
- 「言語教育と情報」
▽言語
- 「言語の構造一般」
- 「日本語の構造」
- 「言語研究」
- 「コミュニケーション能力」
たとえば、▽社会・文化・地域において、「世界と日本」では歴史/文化/文明/社会/教育/哲学/国際関係/日本事情/日本文学などがその学習内容となります。同じように「異文化接触」では国際協力/文化交流/留学生政策/移民・難民政策などの内容が、「日本語教育の歴史と現状」では日本語教育史/言語政策/日本各地域の日本語教育事情などがその内容として明示されています。
これだけでもほんの一部の内容に過ぎません。ですので非常に広い範囲を学習していかなくてはならないことがお分かりになると思います。
ちなみに日本語教育能力検定試験の出題範囲も、これらの教育区分内から出題されます。
詳しい教育内容は下記をご覧下さい。
まとめ
日本語教師を養成する講座に見られる「420時間」の意味は、420時間学習すれば日本語教師になれるというものではありません。また最短で何日あれば修了する、といった指標でもありません。
日本語教師として働くためには、420時間以上を学習に費やしても十分ではない可能性もあるのです。日々成長していくために継続して学習すると共に、時間に左右されない質の高い学習環境に身を置くことを考えていきましょう。